元映画オタク視点から見た「20世紀号に乗って」のアレコレ

シカゴからニューヨークの旅、皆様楽しんでいらっしゃいますか?もう終わるけど。

TCAに円盤化もしくは音源販売は無理と言われてしまったので版権元に拙い英語で何とかならない?と問い合わせたら「無理だよ」と言われてしまい、ここまでして無理なら仕方ないね!!となっている私です。


ところで私、宝塚にハマる前は映画のオタクだったので(オタクいつも何かにハマっていがち)、今回の「20世紀号に乗って」は映画オタク視点でもかなり楽しんでいるんですけども、友人にその話をしたら興味深く聞いてくれたのでここに適当に書き残しておきたいと思います。

宝塚で最近再演された「雨に唄えば」がトーキー映画が出てきたあたり。1920年代後半を舞台にした作品(ジャズシンガーが公開されたのが1927年なのでそのくらいですね)でしたが、本作は1930年代半ばくらいが舞台だと勝手に思っています。正確な年数は分からないんですけど。

1932〜35年くらいが舞台だとちょっと面白いかなと勝手に思っています(Twitterで教えてくださった方がいました!1932年が正解のようです。ありがとうございます!)


というのも、リリーが電車に乗る時に記者の皆さんから投げかけられている質問

フランク・キャプラ監督の次回作に出演するのか」

は、その年代だった場合リリーが出演されると噂されている「次回作」が名作「一日だけの淑女」(本作は1933年アカデミー賞主演女優賞受賞作)とかこちらも傑作スクリューボールコメディ「或る夜の出来事」(本作も1934年アカデミー賞主演女優賞受賞作)の可能性があるし、

グレタ・ガルボと仲が悪いという噂は本当か」

に関しても、あの当時のグレタ・ガルボがどのくらいの大スターだったかを考えるとめちゃくちゃニヤニヤ出来るんですよね。

グレタ・ガルボといえばサイレントからトーキー期にかけての銀幕の大スター女優です。

宝塚でも上演されている「グランドホテル」(1932年)、「アンナ・カレニナ」(1935年)のほか、サイレント期の名作でものすごく美しい「肉体と悪魔」(1926年)、「マタハリ」(1931年)、「椿姫」(1936年)などなど数々のMGM作品に出演していて、そんな大スターと並んで評されるリリー・ガーランドという女優がどれほど大女優としてあの作品内で扱われているかということが分かればあのコミカルな「乗ってくる乗ってくる乗ってきた乗ってきた♪」の曲の乗客のテンションも分かりやすいかと思うんですよ。

そして「リリーのサイン入りの契約書があればどこの銀行もお金貸してくれる」の現実感もすごくわかりやすくなると思う。

当時の銀幕のスターっていうのは雨唄でも分かる通り人通りに出ようものなら囲まれて大変という有様だったようだし、まさに次元が違う扱いをされていたんですよね。


あとリリーが「ルイス・B・メイヤーもいらないわ!CもDも!」というような場面がありますが、この「ルイス・B・メイヤー」も実在の人物で、MGM(映画配給会社)のプロデューサー。

MGMと言えばミュージカル映画好きにはお馴染み(と勝手に思っている)

オズの魔法使」(1939年)、「イースターパレード」(1948年)、「踊る大紐育」(On the Townですね、1949年)、「アニーよ銃をとれ」(1950年)、などなど、あとは「ザッツエンターテインメント!」(1974年)辺りはミュージカル映画が好きな人なら見たことあるんじゃないかなと思う。

そのMGMの全盛期を盛り上げた神の如きプロデューサーであるルイス・B・メイヤー。

発掘した俳優はグレタ・ガルボクラーク・ゲーブルジュディ・ガーランド、ジョン・クロフォードなどなど

「星の数ほどのスターがMGMにはいる」と言われたほどの黄金期。その中の1人がリリーだと思うと映画オタク的にはもうワクワクが止まらないところ。

話の中で「パラマウントに移籍するのか?」とリリーが聞かれている場面があったので多分リリーはMGM所属の女優だと思うので。

そんな黄金期の映画会社に囲われて天才プロデューサーに見初められている(と思われる)リリーが「私は自分がやりたい時にやりたいことをやる」「ルイスBメイヤーはいらない!」ってなるのって物凄いことだし、会社の大権力者に楯突いて独立して自分の会社で映画なんか撮ろうものならそれこそブルースちゃんが心配するように「干される」と思う方が現実的なんですよね。

そこがリリーのかっこいいところであって情熱的なところだと本当に思うんですよ。

ハリウッドって今この時代においても性差別だとか(男女の俳優でのギャラの差とか)セクハラ問題でつい最近も噴き上がっていましたが、当時女優の地位って今よりもっともっと低くて、きっと今よりもセックスアピールを要求されたりだとかそういう闇もあったはずで、その中でリリーのような女優はきっと居づらかったとも思うし扱いづらくもあったはずだと察せるんですよね(勝手に)。

因みにルイス・B・メイヤー、宝塚オタク的には「ラスト・タイクーン」の主人公のモデルになった人だと思ってみるとまたちょっと楽しめると思います。



それと耳に残るfive-zerosの曲から。

200万ドルだった小切手。

舞台はよくわからないから映画視点から行くと、皆様ご存知「風と共に去りぬ」(1939年)ですがこちらの製作費が390万ドル。町を一個作って燃やすみたいなことやってた映画なので、映画視点から考えるとインターミッション込みの3時間の大作で町を燃やさなければ200万ドルでもなんとか作れると思います。

ただテーマが「マグダラのマリアの受難」ですね。

宗教物映画視点から考えてみましょう。

十戒」(1956年)の製作費、1300万ドル。

2000万ドル、「マグダラのマリアの受難」を映画として撮るなら無難な額だと思います!!!舞台は知らないです!!!

今なら海を割るのもイエス・キリストが磔にされて復活を遂げるのもCGと特殊メイクでどうにでもなるでしょうけど当時基準で考えるとエキストラの人数と特殊撮影にかける金額考えただけで目眩がしますね。

映画「特急二十世紀」の中のオスカーはリリーにマグダラのマリアをやってほしいと口説く時に「砂漠から本物の砂を取り寄せよう。ラクダもだ!」みたいなこと言ってましたけどそういう勢いでセットにお金使ってたら舞台でも2000万ドルくらいすぐ使い果たせそうな気はします。知らんけど。


1番の問題は1930年代、MGMやパラマウントが台頭して娯楽作品を観客が求めていた時代に舞台にしても映画にしても余程のもの作らないとオスカーが作りたいような「マグダラのマリアの受難」が多分観客に全く受けなさそうということですね…オスカーさん5連敗の方が現実的だよ…

リリーの情熱×オスカーの情熱が組み合わさったらすごいものが見られそうな気はします。

多分マックス・ジェイコブスのような時代感覚を掴む才能があった人の方がオスカーよりも売れるものは当然作れたと思うんだけれど、リリーが惚れ込んでいたのはオスカーの方だと思うと結構ニヤニヤできます。



その他。

リリー・ガーランド。名前の元ネタは「百合の花束」とか上にもあげた「ジュディ・ガーランド

そして本作中にも名前が出てくる作家サマセット・モームの作品「人間の絆」の中に「ミルドレッド」という女性のキャラクターが出てくるということを色々調べてて知ったのでちょっとニヤニヤしました。ミルドレッド・プロツカ、リリーの本名ですね。

本作の作家さんがどこまで狙ってやってるのか分からないですけど。

あとオスカー、リリーとかにもモデルになる人物がいるんじゃないかなぁと勝手に思って調べてみたんですけどあんまりそれっぽい人物は見つからなかったです。

ただマックス・ジェイコブスはなんとなくジョージ・キューカーっぽいなと思ったのでここに書いておきます。

ジョージ・キューカーサマセット・モームと親交があった映画監督で前述のガルボの「椿姫」や「マイフェアレディ」なんかを撮ってる監督です。MGMとも関わりが強かったのと、女優さんを魅力的に撮る事に定評がある監督さんなので。なんとなく。


そんな映画オタク視点からの20世紀号の楽しみメモでした。